みんなが楽しめる美術館って?

1116日(木)『障害者福祉と文化芸術の関わりを考える勉強会』第3回を行いました。

今回は、ゲストである立浪佐和子さんが学芸員をされている、

横須賀美術館のワークショップルームをお借りしての開催となりました。

当日は第1回からご参加の方だけでなく、第3回からご参加の方も多くいらっしゃって、会場は満席になりました。

 

海辺に建つ横須賀美術館のワークショップルームには、海が眺める大きな窓があり、

快晴のこの日は、雲ひとつない空と青く広々とした海を見渡すことができました。

「横須賀美術館の魅力のひとつを堪能していただけそうです」と立浪さん。

 

2007年にオープンした横須賀美術館は、今年で10周年を迎えます。

開館以来、展覧会だけでなく、教育普及事業の一環として、福祉関連事業にも力を入れられてきたそうです。手探りで進めて来られた、教育普及活動を支える5つの柱の中で、「すべての人に開かれた美術館」を目指す福祉活動の展開について主にお話いただきました。

 

開館当初は、「床や室内を汚すことを気にせず芸術活動をしたい」などの要望に、設備的・人員的に対応が難しかったことがあったそうで、そこから自分たちにできるサポートを考え、今のかたちになったと言います。

最初にご紹介いただいたのは、特別支援学校に赴き、横須賀美術館に出かける前に行なわれる出前授業についてです。どう鑑賞すればいいか、一見とっつきづらい美術作品の、多様な見方を提示しながら、美術館の楽しさを伝える授業を行い、実際の鑑賞へとつなげていきます。

 

また、開館当初から続けていらっしゃる、障害児向けワークショップの「みんなのアトリエ2017」についてもご紹介くださいました。参加対象は、20歳以下の障害児者というだけで、障害の程度は問いません。また、普段はケアをする側でもあるご兄弟も積極的に誘って、誰でも参加できる枠組みを作りました。

年に12回は、障害のある方を対象としたワークショップやパフォーマンスも開催されています。ダンスや音楽、人形劇など、テーマもさまざまに開催し、障害者とアーティストの出会いの場づくりを行ってきました。

2005年から行われている福祉講演会では、「視覚障害者の美術鑑賞」をひとつの切り口にして、「触察本」の先行事例や、「さわれる美術作品」を触覚によって鑑賞する活動について、海外のすぐれた事例を紹介してきました。

一方で、紹介はしてきたものの、横須賀美術館でどのように実際取り入れていくかということについては、まだまだこれからだとおっしゃいます。

見ればわかる、という美術のあり方から、それぞれの人に合わせた鑑賞の方法を提示するために、どのようなやり方をすれば、何を排除すれば絵の本質に近づくのだろうかという模索は続いています。

 

「手探りでやってきた10年、完成したかたちはありません。

決まったひとつのかたちはなく、たくさんメニューがあって、その人にあったものを提示できることが理想です」と、立浪さんは語ります。

 

今後の課題として、地域の福祉施設との連携について挙げられました。

さまざまな取組に、横須賀市内からの参加者が少ないこともあり、市内の障害福祉のコミュニティへのアプローチを始めています。

また、福祉施設の方とコミュニケーションをとっていく中で、

「いつでも来てください」とお誘いすると、「え、いいんですか?!」と驚かれる場面があり、美術館と福祉施設双方に遠慮している実情があることに気付いたそうです。

「大きい潮流に流されず、できることや必要とされていることを無期限に提供できるようになりたい」という立浪さんの言葉に、刹那的に終わるのではない、障害福祉・文化芸術の両者にとって、長く居心地のよい協働のあり方について考えさせられました。

 

その後は、美術館で工夫されて作ってらっしゃるワークシートを用いながら、美術館の鑑賞を行い、最後に少人数に分かれて感想について話し合いました。

障害福祉や文化芸術の双方の悩みや、協働のあり方について、興味深い意見が飛び交いました。普段は出会う機会が多いとはいえない、障害福祉関係者や文化芸術関係者が出会い、対話を重ねること、その積み重ねの重要性を改めて感じました。

時間を過ぎても残って話を続けてらっしゃる方や、当日出会った方と話が盛り上がって、勉強会が終わった後、美術館のカフェで話の続きをされる方もいらっしゃって、話が尽きることがないご様子でした。

立浪さんが時間を掛けて取り組んで来られた美術館の取組を通して、「誰もが楽しめる文化芸術のあり方」について考えを深める機会になったのではないかと思います。

(弓井)